世界の水素関連市場は民間推計で2050年に2.5兆ドル(約260兆円)になる見通しで、日本政府はこのほど水素基本戦略の見直しに動き、国内での水素利用量を2030年で1千万トンに引き上げることを目指し、発電事業や燃料電池車向け燃料として利用を増やし、コストを引き下げる。
川崎重工など重工大手各社が水素関連事業に新たな商機を見いだしており、火力発電所や製鉄所の低炭素化には大量の水素が不可欠で、安価で大量に入手するのは容易ではないが、川重は水素供給の上流から下流まで一体で手がける事業の裾野を広げ、投資対象としてもにわかに注目を集めている。
【川崎重工の取り組み】
川重は世界で初めて液化水素運搬船を開発したほか、国内最大の液化水素の貯蔵タンクも開発、大型運搬船があれば、発電事業向けや燃料電池車への水素供給網を構築でき、水素を冷却して液化する「液化機」、船舶と陸上の間で水素をやりとりする「荷役装置」なども手掛ける。
川重は事業の拡大に一段とアクセルを踏み込み、運搬船は2030年までに現在の約2・5倍のサイズの大型船の商用化を目指し、1日あたり770トンの水素を運べるようにし、2050年には1日3万トンを運べる大量輸送にめどをつけている。
川重の株価は2021年1月には2600円台まで急伸、水素関連銘柄として投資対象になっており、期待に応えられるか問われる。
【三菱重工の取り組み】
三菱重工は国内で水素を使い火力発電設備から排出する二酸化炭素を減らす実証を進め、三菱パワー工場で試験設備を稼働中で、海外でも水素の製造プロジェクトに相次ぎ参画、三菱グループで水素供給から設備の建設、エンジニアリングまで一体で手がける。
【IHIの取り組み】
IHIは2020年11月、北九州市が出資する新電力の北九州パワーや、北九州市などと共同でCO2フリーの水素の製造や供給の実証事業に乗り出し、2021年度にも設備を稼働させ水素の製造・供給コストやCO2削減効果を検証する。
【神戸製鋼、日本製鋼、旭化成の取り組み】
神戸製鋼は水素を気化して運搬や貯蔵するのに使う圧縮機を、日本製鋼所は水素ステーションで水素をため込むのに使う蓄圧器を開発、素材に高強度の鋼管を使うなどしコストを2~3割減らす。旭化成は2025年にも大型の水素製造装置を商用化する。
【日立造船、国際石油開発、JFEスチールの取り組み】
日立造船と国際石油開発帝石がプラントを作り実証試験を始め、JFEスチールはCO2調達技術の試験をしたり、水素を燃焼させ、熱源や電源にするコージェネレーションの活用を進め、さらには自治体と連携して下水処理場の汚泥から発生するメタンガスを使って消化ガス発電も推進する。
【住友重機の取り組み】
住友重機械は半導体分野が好調で「脱炭素化の流れを踏まえた新事業を積極的に展開し、住重の強みを生かし、その他の課題にも対応して成長するビジネスモデルを推進させるが、造船は本来一定の事業規模が必要な産業で、新造船だけで黒字化するのは難しく最小限の建造体制でいくしかない」
【日本ガス協会の取り組み】
日本ガス協会は、ガス業界として2050年に温暖化ガス排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言、水素を利用したガスの脱炭素化を軸に、実現に向けた青写真を描き、温暖化ガスを出さないガスを用いる比率を2030年に5~20%、2040年に30~50%、2050年に95~100%とする方針を示し、10年毎に数値目標を立て、2021年度中に実行計画を策定、東京ガスなどは愛媛県新居浜市の液化天然ガス(LNG)基地から近隣の工場への電力融通を2022年から始める予定で、住友化学工場内での転換から始めて、将来的には近隣地域にも電力を供給する構想だ。
【世界の取り組み】
世界でも日本は水素関連でいち早く実用化するなど水素技術で先進国とされてきたが、足元では欧州や中国が猛追、欧州や中国が掲げるのが巨額の政府資金を投じて安く水素を調達できるインフラをつくることで、欧州連合(EU)は2050年までに4700億ユーロ(約60兆円)を投じる水素戦略を発表、2060年に排出の実質ゼロを目指す中国も水素インフラに巨額投資を計画するなど、国際間競争が激しさを増す中、日本の重工業界が自ら海外の水素製造プロジェクトに直接投資するといった動きも一段と進みそうで動向から目が離せない。